健康コラム
保健師コラム
vol.41 円滑なコミュニケーションのためにできること ~1人でできるアンガーマネジメント~②
実践編
前回は、「怒り」を知り「怒り」を制御することについてご紹介しました。今回は一人でできるアンガーマネジメントの実践についてご紹介します。
アンガーマネジメントに関する研修や各種セミナーにみるように、怒りをコントロールするトレーニングやセラピーについては、臨床心理士をはじめとした心理の専門家による指導を必要としたものがありますが、「会社でアンガーマネジメントに関する研修がない」、「時間がない」、「あまりお金をかけたくない」という方でも、今日からでも実践できる方法が3つあります。
1.トリプルコラム法 ~引き金思考を変える~
前回のコラムで、「怒り」は「引き金思考」が加わることにより生まれるということを理解しました。
このトリプルコラム法では、「引き金思考」にアプローチします。
<手順>
経験した怒りの出来事を、下の表2のように、ABCの段に分けて書き出します。
Aの段:怒りを感じた時、自分が心の中で考えたことを書きます。
Bの段:自分が使っていた思い込み(引き金思考)の種類を選びます。
Cの段:ゆがんだ引き金思考を含まないよう、Aの文を書き直します。
2.対応予習法 ~誰かと衝突したときの行動の組み立て方~
この対応予習法では、誰かと衝突したとき、よりよい結果を得るための行動の組み立て方(ルール)を身につけます。
<ルール>
1.下の表3の6つのことばすべてを暗記する
2.できるときはいつでも、能動的な対応のことばの1と3を前もって練習しておく
3.怒りやエスカレートが続くなら、それは対応を切り替える信号
4.対応を繰り返すことをおそれないこと
5.次に何をしたらいいかわからないときは、能動的な対応から受動的な対応へ方向を変える
6.問題が解決できたと感じるまで、またはこれ以上のコミュニケーションに意味がないと思えるま
で、いろいろな対応を切り替え続ける
3.効果的なコミュニケーション ~アサーティブ(きちんと主張する)対処スタイル~
これまでの経験のなかで身につけたコミュニケーション方法が、必ずしも効果的なコミュニケーション方法ではない可能性があります。ここでは、「怒る」ことなく、どのようにして自分のニーズを満たせばよいかのスキルを学びます。
<ポイント>
1.自分の思いを主張する発言のしかた
事実と感情を分ける。話し合いを客観的な発言で始めることで相手の協力が得られやすい。
2.頼み事のしかた
① 一度に一つのことだけを扱う:多くのことを一度に要求すると、相手は圧倒されてしまう。
② 具体的なリクエストをする:正確に何をしてほしいのかを説明する。
③ 行動に関するリクエストをする:態度や価値観、感情を変えるように要求することはできない。
3.制裁のルール
① 制裁は具体的なものにすること:どのような振る舞いにより何が起こるのかを正確に伝える。
② 制裁は妥当なものにすること:「時間通りに来なかったら先に行く」など適切な制裁にする。
③ 自分にとって受け入れられる制裁にすること:自分自身が傷つかない制裁を考えておく。
④ 制裁は首尾一貫させること:あなたとあなたの限界を尊重させ、立場を理解させることができる。
4.交渉のルール
① 自分が欲しているものが何なのかはっきりさせる:相手に何をしてほしいか、してほしくないか。
② 相手の反対意見に耳を傾ける:相手の立場を理解する。
③ 提案をする:相手が何を必要とし、何を求めているかを考慮した提案にしなければならない。
④ 逆提案をしてもらう:あなたの提案を受け入れなかった場合、他の方法を考えてもらうよう促す。
5.限界の設定
「ノー」と言うための、自分自身のニーズと欲求の境界線をはっきりさせる。
6-1.「ノー」と言うための方法1
① 相手のニーズを理解する
② 自分の立場(事態についての自分の好み、感情、知覚)を表明する
③ ノーと言う
6-2.「ノー」と言うための方法2
① 時間をかけること
② 謝りすぎないこと
③ 卑下しないこと
④ 具体的な表現をすること
⑤ 声とボディランゲージに気をつけること
⑥ 罪悪感に注意すること
7.批判に対処する
① 損害を限定すること:その批判は、あなたの行動のある特定の面についてのたった一人の意見であることを思い出すこと。
② 問題を探ること:批判はときに成長に必要なフィードバックを提供してくれるかもしれない。批判の価値を見極めるために、問題をさぐり正確に理解すること。
③ 批判をそらす:正確な部分にだけ同意する、前提は受け入れずに原則のみ同意する、自分の好みを表明する、時間を置く、内容からプロセスへ方向転換する。等
以上、今日からでも取り組めそうな「怒り」をコントロールする方法をご紹介しました。
まずは取り組みやすそうな方法から取り入れてみてはいかがでしょうか。
最後に
「怒り」という感情は、ほとんどすべての精神障害においてみられる状態の一つでもあります。
イライラ感の原因と思われる明らかなストレスが見当たらない場合、周囲から指摘されるほどのイライラで困っている場合や、アルコールの量が増えてきた場合などは、一度専門医への相談をおすすめいたします。
引用・参考(2021年2月 閲覧)
1)マシュー・マッケイら(著)榊原ら(監修)(2011).怒りのセルフコントロール ー感情への気づきから効果的コミュニケーションスキルまでー.明石書店.
2)日比野ら(2006).怒り経験の鎮静化プロセスと怒りコントロール.筑波大学心理学研究,31,31ー43.
3)増田ら(2002).怒りの表出傾向が認知行動療法の効果に及ぼす影響ー行動に焦点をあてた参加者主体 社会的スキル訓練を適用してー.行動療法研究,28,123-135.
4)Fernandez E et al (2001) .Cognitive-Behavioral self-intervention versus self-monitoring of anger: Effects on anger frequency, duration, and intensity. Behavioral and Cognitive
Psychotherapy, 29,345-356.
他)厚生労働省(怒りとは)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/symptom2_3.html
厚生労働省(うつ病の認知療法・認知行動療法)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
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