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健康コラム
vol.39 円滑なコミュニケーションのためにできること ~1人でできるアンガーマネジメント~①

保健師コラム

vol.39 円滑なコミュニケーションのためにできること ~1人でできるアンガーマネジメント~①

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、私たちの生活そのものが大きく変化しました。
特に、仕事上の変化としては、在宅ワークやオンライン会議の機会が増えるなど、これまで以上に他者とのコミュニケーションに苦慮している方も多いのではないでしょうか。今回は、円滑なコミュニケーションのヒントとなる「怒りのセルフコントロール(マシュー・マッケイ著:明石書店)」や、関連論文等から、今日から役に立つ情報をお届けします。ぜひ参考にしてみてください。
前編では「怒り」を知り「怒り」を制御することについて、後編では一人でできるアンガーマネジメントの実践について、2回に分けてご紹介します。


「怒り」を知る

「怒り」とは認知の結果である

みなさんが日常で「怒り」を感じるときはどのようなときでしょうか。仕事がうまくいかないとき、家族と口論になったとき、天候が不快なとき、ドアに足の指を挟んだとき・・・。様々な場面があると思いますが、「怒り」は自然にわきあがるものではありません。

生化学的なホルモン(プロラクチン、テストステロン、ノルアドレナリン等)と感情には関連がありますが、生理的な刺激だけで人を怒らせることはできません。また、攻撃的行動を司るとされる大脳辺縁系を刺激することだけでも怒りは生まれません。
つまり、「怒り」は個人の評価と解釈と関連した、認知的な反応であるということが様々な研究から示唆されています。

この認知的反応に、「お前が悪い」「すべき思考」といった引き金思考を用いることで、「怒り」が生み出されます。
つまり、「ストレス(不快な刺激)」+「引き金思考」=「怒り」であるということを認識しましょう。
(「引き金思考」については、コラム後編で具体例を掲示します。)

「怒っても自分にとっていいことはない」とまず認識する

「怒り」を行動や言動にうつしたとき、すっきりしたと感じる人も中にはいるかもしれません。しかしながら、怒ることは自分にとっていいことはないということが様々な研究で明らかになっています。
怒ることによるデメリットについて、マッケイ博士らの著書等から簡単にまとめてみました。

<デメリット その1>心身への悪影響
まず、過度な怒りの表出や抑制は心身に悪影響を及ぼします。
 ・高血圧、心筋梗塞や狭心症等の循環器系の病気と関連する
 ・無力感を感じ、生活のあらゆる面で満足感が低くなる 等

<デメリット その2>人間関係を悪化させる
当前のことながら、人間関係への影響も明らかになっています。
 ・人に与える印象が悪化する
 ・孤立を招く(孤立からさらに健康へも悪影響を及ぼす)
 ・他者を傷つける 等

「怒り」は表出しても、抑制してもどちらも自分自身にとって良いことはないということはわかりました。
それでは、「怒り」をどのようにしたらコントロールできるのでしょうか。


「怒り」を制御する

アンガーマネジメント

1980年代頃から、認知行動療法(CBT)によるアンガーマネジメントがトレンドになりました。
認知行動療法(CBT)とは、うつ病等の精神疾患にも適用される精神療法の一つです。
「出来事ー自動思考ー感情ー行動」の相互関係に着目した方法であり、認知(ものごとのとらえ方やものの見方)に働きかけて、ストレスを軽減していく治療法で、種類も多数あります。
この精神療法を応用して「怒り」をコントロールすることが、世界中で研究され、その効果についても明らかになってきました。

「怒り」のコントロールに関するトレーニングには、より行動面に着目した方法や、認知面に着目した方法、そして認知と行動の療法に着目した認知行動療法など、様々あります。
アンガーマネジメント研修等で教わる方法も、おそらくこれらの方法を基本とした内容と考えられます(表1)。

アンガーマネジメントの効果の事例

これまでに世界中でアンガーマネジメントの効果に関する研究が蓄積されてきています。
ここではその一部をご紹介します。

<アンガーマネジメントの効果に関する事例その1:日本の大学生を対象にした研究>
怒りの表出傾向が高い大学生を、①認知行動療法を実施するグループと、②実施しないグループにわけて介入比較したところ、①のグループでは②のグループと比べ、認知行動療法介入直後の怒りの特性のスコアだけでなく、敵意や不安についても統計的に有意な低減がみられ、その効果は3か月後も維持されていたことが明らかになりました。

<アンガーマネジメントの効果に関する事例その2:海外の大学生を対象にした研究>
研究に参加した大学生を、①認知行動療法によるセルフアンガーマネジメントのトレーニングを受けるグループと、②セルフモニタリングのみのトレーニングを受けるグループにランダムに割付をし、その後の怒りの状況を調べたところ、①のグループでは②のグループよりも、怒りの頻度、長さが著しく少ないことが明らかになりました。

このほかにも、アンガーマネジメントの方法とその効果については多くの研究によりエビデンスが確認されているのです。
次回はそんなアンガーマネジメントの実践についてご紹介させていただきます。


引用・参考(2021年2月 閲覧)

1)マシュー・マッケイら(著)榊原ら(監修)(2011).怒りのセルフコントロール ー感情への気づきから効果的コミュニケーションスキルまでー.明石書店.

2)日比野ら(2006).怒り経験の鎮静化プロセスと怒りコントロール.筑波大学心理学研究,31,31ー43.

3)増田ら(2002).怒りの表出傾向が認知行動療法の効果に及ぼす影響ー行動に焦点をあてた参加者主体 社会的スキル訓練を適用してー.行動療法研究,28,123-135.

4)Fernandez E et al (2001) .Cognitive-Behavioral self-intervention versus self-monitoring of
anger: Effects on anger frequency, duration, and intensity. Behavioral and Cognitive
Psychotherapy, 29,345-356.

他)厚生労働省(怒りとは)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/symptom2_3.html
厚生労働省(うつ病の認知療法・認知行動療法)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf

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